第16回 声の高さと強さ(大きさ)


前回に述べた声の高さのことについて少し補足したいと思います。声の高さに男女差があることを説明しましたが、男でも女でも一人ひとりについてみると、それぞれ声の高さを変えて高い声、低い声を出し分ける調節を行っているわけです。たとえば歌を歌う時には、高さつまりメロディの調節が不可欠です。また、文章に抑揚をつけることや、単語にアクセントをつけることも声の高さの調節の重要な側面です。抑揚やアクセントには方言の差があり、標準語では疑問文、とくにyes-noで答えられるような疑問文では語尾が上がりますが、北関東から福島の付近の方言では平叙文で語尾が上がることがあります。アクセントについては、いわゆる東京方言と関西方言では、アクセントと位置が逆になることが多く、「垢」と「赤」などはその例の一つで、アカの最初のアの音を高くすると東京では「赤」になり、関西では「垢」になってしまいます。中国語やタイ語では、単語内の高さの変化で単語の意味が変わるという特徴を持っており、音調言語などと呼ばれています。中国語では4種類に変化があるので四声といわれており、たとえば"ma"という単語では高さの変化パターンによって、「母親」、「麻」、「馬」、「駕籠」と、4種類の違った意味を持ってきます。タイ語はもっと複雑で5種類の変化パターンがあります。


喉摘者では、歌のメロディが歌いにくいほか、こういうアクセントの調節が難しく、さらに中国語やタイ語のような言語では意味の出し分けがもっと難しくなるのです。それでも以前中国から来た紀燕さんのように、上手な人では出しわけが的確に行われていました。そのメカニズムは実はまだよく判っていないのですが、新声門部の緊張を高めるような調節によって声をある程度高くできるようです。日本語はこれより単純ですので、練習効果が期待できます。


高さとは別に声には強さ(耳で聞いた場合の、声の大きさ)という要素があります。強さというのは音の物理的なエネルギーに対応しており、「強い声」を出した場合、音を聞く側の感覚としては「大きい声」として受け取られます。従って一般的な表現としては、大きい声を出す、という意識で出すと結果的に強い声が得られるといえるでしょう。なお、高い声と強い声(あるいは大きい声)というものとが混同されることがありますが、高さと強さ(感覚的には「大きさ」)とは、はっきり区別して考える必要があります。ただ、歌手などを別とすれば、普通は大きい声を出そうとすると同時に声の高さも高くなることが多く、この両者を区別して出し分けるのは必ずしも容易ではありません。声の強さは、主として吐く息の圧力(呼気圧)と音源(健常者では声帯部)の閉鎖の力によって決まるもので、強い(大きな)声を出す場合の意識としては、のどに力を入れ、吐く息にも力を入れるようにします。これは食道発声の場合も同様で、新声門部に力を入れ、吐く息にも力をこめるようにすると強い(大きな)声となります。


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