第15回 声の高さについて


人の声の高さは、喉頭がある場合には声帯の振動数、つまり1秒間に声帯が何回振動するかによって決まります。その単位はヘルツで表され、数が多いほど高い声ということになります。男性の話し声が女性より低いのは、男性の声帯振動数が、女性より少ないことによるものです。振動数は振動するものの長さ、質量、緊張度などによって決まります。長いもの、重いもの、緊張が緩いものの方が振動数は少なく、音は低くなります。弦楽器の弦も、太い弦では音が低く、同じ弦でも弦の途中を押さえて振動部分を短く、しかも緊張させるようにすると音は高くなります。ある個人について考えると、誰でも高い声から低い声まで出せるわけですが、これは声帯の厚み(つまり振動部分の質量)や緊張度を筋肉の働きで変えることによって調節しているのです。もちろん男性の場合と女性の場合とでは調節できる範囲が異なっており、歌手でソプラノの範囲とテノールの範囲が違っているのがそのよい例です。


食道発声の高さは、振動部分である新声門の粘膜の振動数ということになり、やはりその部分の質量や緊張度によって決まるものですが、この部分の物理的性質には男女差があまり無く、しかもかなり粘膜が厚く質量も大きくなりがちですので、一般に男女とも低めとなります。このため、とくに女性の場合には男性と間違えられたりすることが起こるのです。さらに、その部分の緊張度を調節する特別な筋肉などがありませんので、声の高さを変えることが難しく、メロディを歌うことはもちろん、アクセントや抑揚もつけにくいのが実情です。しかし練習によって新声門部の緊張を高めるようにすると、声を高くすることがある程度可能となるようで、その場合には意識的に頸のあたりに力を入れて調節している場合が多いようです。「雨」と「飴」の出しわけのようなアクセントの練習も、日常生活上重要なことです。健常人の話し声の高さは男性で130~150ヘルツ程度、女性ではその倍くらいですが、平均的な食道発声の高さは文献的には100ヘルツ前後といわれています。しかし以前に銀鈴会の指導員の方々の声の高さを測定してみたところ、もう少し高いようでした。


またメロディをつけるのはなかなか困難ですが、音程の変化が比較的少ない歌であれば、かなり歌える方もみられるのは事実です。是非練習してみて頂きたいと思っています。女性で手術前と同じような高めの声を出すことも難しいのですが、女性らしい話し方ということを練習課題とするのも大切であるといえましょう。中国語やタイ国語では声の高さの変化(音声学の表現でいえば、音調の違い)によって単語の意味が変わってくるので、その習得は日本語の場合よりさらに難しいとされています。それでも、これまでの研究で、上手な人では、他人に十分判る程度の高さの変化をつけることができる、と報告されています。なお、声の高さそのものとは直接関係はありませんが、音源部分での振動が不規則になると雑音が入りやすくなるので、食道発声が多少濁った音にきこえるのはやむを得ないことと考えられます。


  第14回 食道発声における好ましくない習慣     第16回 声の高さと強さ