第14回 食道発声における好ましくない習慣


食道発声の練習に際して、自分自身で練習を続けることは重要ですが、とくに初期には自己流の悪い癖、すなわち好ましくない発声の習慣がついてしまう場合があるので注意しなくてはなりません。食道発声をしっかり身につけるために避けなければいけない習慣としては次のようなものがあります。

 

 A.空気の取り込み(空気摂取)の際の問題
1.空気を食道内に取り込む時に雑音が出る
 これは、空気の取り込みを注入法主体で行う時に起こりがちで、口の中の圧力を高めて空気を押し込む際のグーッという音です。稀には吸引法で吸い込む時にも似たような音がする場合があります。こういう音は不自然で、話の明瞭度を損なうものといえましょう。また、注入法では、唇やあごを盛んに動かして注入する場合があり、これも大変不自然に見えるので注意が必要です。

2.頻回の取り込み
1回の空気摂取では食道内に十分な空気量がえられないので、繰り返し摂取動作を行う人がいます。周囲の人に不自然な感じを与えますし、話のリズムがこわれてしまいます。

3.顔をしかめたりする余分な動作がみられる 
 空気摂取の時に余分な力が入りすぎて顔をしかめたりすると異常な感じを与えます。これは前述のように、注入が主体となる人に見られがちです。

4.嚥下をそのまま使う
空気摂取に嚥下(飲み込み)動作を使うのは好ましくありません。

 

B.発声時の問題
1.気管孔雑音
 発声時に気管孔からの呼気の流出が著明で、強い気流雑音を生じる人がいます。余計な雑音で話の明瞭度を低下させます。
2.顔しかめなどの動作
 発声時に力が入りすぎることの表れです。
3.口腔囁語、咽頭発声
 食道に十分空気が入らず、口内あるいは咽頭部の少量の空気だけで発声するもので、最悪な癖といえましょう。口腔囁語を使う人では、「カ」行に似た音を、舌の後部と咽頭の壁の間で作って、それで「カ」行の音が出せたと思ってしまうことがあります。咽頭発声も、咽頭の少し深い部分(舌根部と咽頭の間の狭い空間)に少量の空気を溜めて音を出そうとするものです。指導に当たる立場にある人は、やはり他人が出している音をしっかり耳で聞いて、その良否を判定できるような訓練を積む必要があります。

 

C.悪い癖の予防
癖が定着しないように指導員はいつも注意を払っています。指導員の助言を受け、それを守ることが最も重要です。


D.癖の除去
1.空気取り込みの際の雑音をとる
まず、自分の声を録音してきいてみることが勧められます。空気をゆっくり摂取すること、顎を少し前に出すような感じで、吸引を身につけていくのが第一です。 
2.数回注入、顔しかめなどの癖をとる
鏡をみて癖を確認します。単音で、一息一声を完全に身につけるべきです。
3.口腔囁語、咽頭発声の除去
 空気が不十分な状態で話そうとしないことが必要で、やはり自分の声を録音して聞いてみるとよいと思います。この場合、正しい音と誤った癖で出している音との違いが判らなくてはいけません。練習に際して早口は厳禁です。とにかく食道に入る空気の量を増していくのが先決です。なお、空気の取り込みと嚥下動作とは違うということを自覚するのが基本です。

4)気管孔雑音
 自分の発声を録音して聞いてみる必要があります。また、気管孔の前に手をあてて、空気の漏れをチェックすることもよいでしょう。腹式呼吸中心とすることが大切で、胸でハアハアとあおるような呼吸、および、それを利用した発声を、決してしないような注意が必要です。


  第13回 食道発声がうまく行かない場合      第15回 声の高さについて