第8回 食道発声の習得状況について


喉頭全摘手術をうけて日喉連の各団体に入会された会員の関心事の一つは、どのくらいの割合で(つまり全体の何割くらいの人が)食道発声を獲得できるものだろうか、ということであると思います。また、うまく声が出るようになるのにはどのくらいの日数が掛かるのだろうか、というのも気になるところでしょう。

 

これまで多くの研究者が自分の観察結果を報告していますが、結論からいうとおおよそ60~70%の方が食道発声に成功しているといえるようです。ただし、なにをもって成功といえるか、という基準の設定や、調査の対象となった喉摘者の条件(たとえば年齢、手術の種類、等々)が一定していないので、それぞれの結果を比較することはなかなか難しいところです。 


ここで具体的な例として、かなり以前のデータですが、銀鈴会の創始者である高藤次夫先生が銀鈴会会員を対象として2回にわけて調査された結果を示します。最初のものはまだ銀鈴会が発足して間もない昭和35年のデータで、当時の会員202名中105名が食道発声者であり、これを発声不能、単音可能、2~3音可能、簡単な会話可能、流暢会話可能の5段階にわけ、簡単な会話可能以上のグループを成功例としたところ、簡単な会話可能が29名、流暢者30名で成功率59%でした。また、23年後の昭和58年の調査では、発声教室に10回以上出席した960名について、簡単な会話可能216名、流暢者456名で、成功率70%と報告されています。これを年代別にみると、やはり若い方ほど成功率は高く、40代で88.5%、50代で79%ですが、70代でも51.5%の成功率です。上達の平均月数は6.8月で3~6ヶ月を目標に努力すべきであるという結論が出されています。


国内の他のデータでは、大阪成人病センターにおける3年間の統計で180例中の、経過観察可能であった110名のうち食道発声が可能となった人は、69例(63%)、全体の59%の人が2ヶ月以内に単音発声ができ、4ヶ月以内には87%の人が少なくとも単音は確実に出ているとしています。また80歳代でも17%の人が発声可能となりました。(日本耳鼻咽喉科学会会報96:1993)。なお上記の110名のうち89名(78%)が練習をした結果といわれています。その他、新潟大(1993)のデータでは術後5年以上経過し、食道発声の練習をした22名中15名(68%)が成功例となっています。外国の例をみると、Putney(1958)は440名中62%、Johnson(1960)は145名中57%、Horn(1962)は3,366名中64%、Gate(1982)は多くの人のデータを総合して、64~69%の成功率と報告しています。その他の人の報告でも大体こうした値が出ており、やはり若い人では成功率が高く、練習をした人の成功率も高いという傾向が認められています。なお、一時的な不調はよくあることで、早朝には調子が悪い、気分によって変化するなどの報告があります。単純喉摘(喉頭だけを摘出する方法。頸部郭清術を含む例もある)の場合では、皮膚切開の方法や、喉頭摘出後に残された筋の縫い合わせ法などに違いがあっても、術後の食道発声成功率には殆ど差がないとされています。


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