第3回 喉頭の構造と機能


誰でも、身体のどこかが悪くなる前には、その部分がどのような働きを持っているのかについて、余り考えないのが普通だろうと思います。日喉連の会員の場合も、喉頭について手術の前に意識した人は少ないと思われます。今回は喉頭の構造や機能(働き)についてふれてみたいと思います。


喉頭は頸部の前側にあり、下顎の下方に当たります。喉頭は一口にいうと軟骨で囲まれた箱のような器官で、呼吸をする際に空気が出入りする管と考えることができます。その管の下方が気管となって肺につながっているわけです。喉頭と気管の後方(背中側)には食道があり、咽頭と胃をつなぐ役割りをしています。頸部を外からみると、男性ではいわゆる"のどぼとけ"が目立っていますが、この部分は喉頭を形作る軟骨のうち最も大きい甲状軟骨の前上端部にあたり、その少し下方の内側に声帯があります。声帯は喉頭という管の左右の壁から突出した一対のヒダ状の構造で、呼吸をするときには左右に開いて空気を通し、声を出すときには真中に寄ってきます。左右の声帯が近接して管の内腔を閉じるようになるとき下方の肺から空気が吐き出されると、左右声帯の間を空気がすり抜けていくことになり、声帯は丁度ファゴットなど、2枚のリードのある管楽器の、リードのように振動を始めます。この振動で空気の流れが断続されて音、つまり声が出るのです。従って、喉頭は一種の管楽器と考えることができ、声帯振動といっても弦楽器の振動とは性質が違っているのです。


このように喉頭は声を出すために必要な器官ですが、もともと喉頭は飲食物が気管の方に迷入することを防ぐ器官として進化してきたものです。われわれがものを飲み込むときに、喉頭は強く閉まって気管への迷入が起こらないようにしています。カンガルーやキリンのように、声を出さない動物でも立派な喉頭があるのはこのためです。もし誤って飲食物が気管に入り込むと、強い咳が起こってこれを吐き出しますが、これも喉頭の重要な働きの一つといえます。このほか、われわれが腕に力を入れて重いものを持ち上げたり、あるいは排便などでいきむときには、喉頭を強く閉じて息をこらえることが知られています。


 結局、喉頭は
1. 呼吸をするための通路として働く、
2. その通路に異物が入らないように保護しまた誤って入ったものを咳で吐き出すように働く、
3. 声をだす時に声帯を閉じて振動を起こすように働く、
4. 力を入れるときに息をこらえるように働く、
の4つの主要な機能を持っているといえるのです。
 従って喉頭摘出術を受けた場合には、これらの働きが失われるということになります。


しかし別の見方をすると、喉頭は大きな血管や、他の臓器からある程度離れた器官であり、上にあげた働きについても、もし喉頭が失われたとしてもいろいろな方法で補うことがある程度可能ですので、喉頭全摘というような有効な手術が発展してきたともいえるでしょう。


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