第24回 喉摘者に対する国民年金・厚生年金保険障害認定について


今回は少し医学的なテーマから外れる話題について述べてみます。会員歴の長い方はご存じかと思いますが、平成9年の“事件”として、喉摘後に国民年金施行令に基づく2級認定を受けていた銀鈴会会員の一人が、食道発声を習得して会話が可能となったために、3級に降格されるという通知を受けたことがありました。

 

そもそもこのような障害程度の診断に当たっては、医師が国民年金・厚生年金等に関する診断書を作成する必要があり、そのための評価記入欄は次表の通りとなっています。すなわち、評価の第5項目として「言語(構音・音声)機能の障害」というものがあり、該当するところに○をつけるのですが、その内容は 


 ア 発音不能な言語
1.口唇音(ま行音、ば行音、ぱ行音等)
2.歯音、歯茎音(さ行、た行、ら行等)
3.歯茎硬口蓋音(しゃ、ちゃ、じゃ等)
4.軟口蓋音(か行音、が行音等

 

イ 会話状態
1.日常会話が誰が聞いても理解できる。
2.電話による会話が家族は理解できるが、他人は理解できない。
3.日常会話が家族は理解できるが、他人は理解できない。
4.日常会話が誰が聞いても理解できない。

となっています。

 

このような段階評価は、もともと脳血管障害(脳出血や脳梗塞)に伴う言語障害を念頭において考案されたもので、喉摘者のことは始めから全く考慮に入っていなかったというのが実情でしょう。そこで、再審査に当たって食道発声が上達していたために、みかけ上発音できる音の種類が増えていたり、会話が他人にもよく理解されるようになったという理由で降格措置がとられるという結果になったものと考えられます。

 

このような事態になったために、この方はその降格措置を不当として東京都社会保険審査会に再審査を要求し、銀鈴会としてもこの再審査要求を全面的に支援したのです。この場合の論点は、いかに食道発声に習熟して会話明瞭度が上がったとしても、獲得された“音声”は声帯の部分で生成される正常の音声とは異なるものであり、疾病の回復に伴う症状改善と同一視することはできない、というものでした。当然のこととは思われますが、結果的に降格は不当という判断が下され、平成10年12月25日付けの裁定により、この方の障害基礎年金支給と障害厚生年金額は元に復するという結果になったのです。

 

このような事態を重く見た社会保険庁では、この裁定を受けて、喉摘者については、いかに食道発声に習熟したとしても術後の無喉頭状態が続いているとの解釈に基づいて2級と認定することを決め、このことは平成11年3月10日に社会保険庁内で開かれた「障害認定審査委員事務打ち合わせ会」で確認されたのであります。こうして喉摘者の危惧は一掃されましたので、日喉連各団体の会員の皆さんには、この上とも食道発声習熟に励んでいただきたいと切望しています。

 

障害認定診断書の記入は認定資格を持つ医師の義務であり、われわれ医師としては障害者の方々の不利になることがないように常に注意しながら誠意をもって記入すべきであると考えています。このような見地から、とくに認定資格をもつ耳鼻咽喉科医は、上に述べたような喉摘者についての確認事項を十分に理解しておく必要があることはいうまでもありません。 ここで注意したいのは、これまで述べた認定段階評価は、あくまで国民年金受給者が受けうる障害基礎年金と、厚生年金受給者が受けうる障害厚生年金の等級認定についてのことで、喉摘者はいずれも2級に該当します。これとは別に、身体障害者手帳の交付を受けるための身体障害者等級認定が必要で、こちらについては、喉摘者はすべて3級に相当するのです。この両者を混同しないように注意すべきです。

 

なお、本稿を作成するにあたっては東京都の障害認定審査委員であられた笠原行喜先生が都耳鼻咽喉科医会報(第120号 53-54.2006)に寄稿された記事を引用させていただいたことを付記して謝意を表するとともに、この問題に関する先生のこれまでのご尽力に心から敬意を捧げるものであります。

 

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