第23回 身体障害者の現状と老人保健について


喉頭摘出者(喉摘者)は手術によって声を失うという、きわめて大きな障害をうけるために、例外なく身体障害者としての認定を受け、身体障害者手帳の交付を受けることができます。無喉頭状態は、音声言語障害のうちの発声機能の喪失に相当し、等級としては3級と認定されます。この等級は、音声言語障害の中では最も重いものであり、これ以上の等級は重複障害がある場合にのみ認定されることとなります。


一旦喉頭を失って3級と認定され手帳の交付を受けると、これは障害年金等級の判定の根拠ともなります。このような認定ないし判定は、仮に本人の努力によって食道発声が上達し、新しく獲得した声を使ってのコミュニケーション能力が改善したとしても、なんら変更されるものではありません。


これは、どんなに食道発声が上達したとしても、それは「代用音声」であり、声帯振動で得られた声ではないからです。つまり「声」とは、あくまで“肺、気管支、気管から送り出された空気によって声帯振動が起こり、その結果生じたのが音声である”という定義に基づいているもので、代用音声に習熟しても本来の障害は残っているという解釈であります。かつて、東京都において食道発声上達者に対し、コミュニケーション能力の上昇があることを理由に等級の格下げが諮られた事例がありましたが、上に述べたような論拠によって、その格下げが実現することはありませんでした。


いずれにしても身体障害者手帳の交付は是非受けていただきたく、それはそれとして、食道発声あるいは電気喉頭などによるコミュニケーション能力の改善に向かって努力して頂きたいと考えています。


身体障害者について多少付け加えますと、平成18年の統計(厚生労働省発表で最も最近のもの)によれば日本全国の身体障害者総数は348万3,000人で、その5年前に比べて約7.3%増加していました。これは人口1,000人中28人という数字となります。このうちの半数は肢体不自由者で、全数の3割は内部障害者(身体の内部にある心臓や肺の障害を持つ人)です。これに対し、われわれ耳鼻咽喉科医が関係する聴覚・音声言語障害者は全体の約1割の34万3,000人であり、その大部分が聴覚障害者なのです。手帳を保有する喉摘者の実数についての正確なデータはないのですが、聴覚・音声言語障害者の総数の20分の1以下ではないかと考えています。因みに身体障害者の約半数が70歳以上であり、年齢の下限を少し下げて60歳以上の人の割合をみると、実に7割強が含まれてしまいます。


老人保健について多少ふれてみますと、昭和57年に老人保健法が始めて施行され、70歳以上の老人に老齢者保険証が交付されて病気や怪我の診療、あるいは予防的健康管理などについて公的な援助、すなわち国や地方自治体からの経済的支援が行われることが成文化されました。しかしその後、国あるいは地方自治体の財政的逼迫から、繰り返しこの法律の改定が行われており、老齢者の自己負担が増加しつつあり、平成20年に「後期高齢者医療制度」の発足により、75歳以上の高齢者を「後期高齢者」と呼称し、新しい保険システムが創設されました。ちなみに65歳~75歳未満の高齢者は「前期高齢者」に分類されています。ただし、65歳以上75歳未満でも、「寝たきり等の一定の障害がある」と広域連合から認定された方は、原則としてこの新制度に含まれ、「後期高齢者医療制度」の被保険者となっているのはご存じの通りです。これまでの制度と大きく異なる点としては、「老人保健法」による老人医療制度では他の健康保険等の被保険者資格を有したまま老人医療を適用していたのに対し、後期高齢者医療制度では適用年齢(75歳以上)になると、現在加入している国保や健保を脱退させられ、後期高齢者だけの独立した保険に組み入れられるという点や、徴収方法が年金からの天引きが基本となっていることや一つの病名によって1ヶ月の医療費が決められる「包括制」や、新たに設けられた診療報酬なども挙げられます。また、介護保険における負担額の増加もあり、さらに最近成立した障害者総合支援法の施行においても、いろいろな面で障害者福祉に問題を来たす可能性がありうることが、引き続き論じられている現状です。

 

日喉連においては各人が障害者としての自立を図り、新しい声を獲得して人生の価値を高めようとしていますが、さらに会員の一人ひとりが自らの健康に留意して有意義な日々を送っていかれることを願っております。


 第22回 食道発声以外の代用音声について     第24回 喉摘者に対する国民年金・厚生年金保険障害認定について