重複がん(多重がん)について


                                                                                          大阪府立成人病センター名誉総長                                      

                                          日喉連 顧問 佐藤 武男

 

喉摘者の皆さんは、喉頭がん・下咽頭がんを見事に克服されたのですから、これからは健康で長寿にめぐまれます様に願っています。先輩のなかには90才を超えて百歳長寿をはたされた方がおられますので、是非とも後に続いてほしいのです。どなたにとっても、いくつで死んでも早死です。死は不条理だと思います。

 

長寿のためにはまた再びがんの予防に注意しなくてはならないのです。これはがんの再発ではなく、別の部位に喉頭がんでないがんが発生するのです。がんをやっとの思いで克服したのに、またがんとはどういうことかと思われますが、このがんを重複がん、または多重がんといって問題になってきました。あるがんになって、それを克服したのだから、これでがんに対する免疫ができていると考えやすいのですが、そのようながん免疫はありません。

 

むしろ喉頭がんになった人は重複がんになる危険性は高いのです。私はこれをがんの二重告知と称しています。その理由はいくつかありますが、まず第一に喉頭がんはよく治るがんになりましたので、寿命が延長し、また再びがんになる歳月を生き延びることができるからです。次に喉頭がんの発がん原因として喫煙が考えられ、このがんは喫煙関連がんの第一位でもあるのです。男性喫煙者は非喫煙者よりも発がんの危険率は高く、例えば、喉頭がんでは32.5倍、肺がんでは4.5倍、口腔がんでは2.9倍、食道がん2.2倍、胃がん1.5倍、肝臓がん1.5倍、膵臓がん1.6倍、膀胱がん1.6倍も危険率が高いのです。全部位のがんでみますと、1.65倍となっています。

 

したがって、重複がんの発生部位は、当然にこれらのタバコ関連がんが多くなります。とくに肺がんを軸として口腔・咽頭・食道のがんの早期発見に注意しなくてはなりません。

 

私の経験では喉頭がんの方を20年間の長期に診察しました結果、何と50%の方に重複がんが発生し、それらを治療してきました。このことから喉頭がんになった方は生涯にわたってがんに注意しなくてはならないと考えています。

 

とくに喫煙量が多かった人は、タバコ関連がんに注意して生活して下さい。タバコ指数という言葉があります。これは一日の喫煙本数×喫煙の年数のことで、喉頭がんの平均タバコ指数は20~30本×30~40年で600~1200なります。約1000が平均指数となります。これを記憶にとどめておいて下さい。したがって1000を超えている人は重複がんのハイリスク・グループに属すると考えて下さい。一般に禁煙後10年たてば、発がん危険率は50%低下すると考えてよいと思いますが、決してゼロにはなりません。

 

タバコ喫煙者の全てが発がんするわけではありません。お酒に強い人と弱い人とが生れつきに決まっているように、タバコ喫煙者はその15%が発がんしやすいのです。これはタールのなかにある発がん物質が代謝されて、この発がん物質が強力な発がん変異物質に変化すると発がんへの道を歩むのです。この発がん変異物質へ変える活性の弱い人は発がんしないのです。酒が強い、弱いということとよく似ています。

 

タバコを喫煙したために喉頭がんになったのですから、皆さんはタバコに弱い体質だと考えるべきでしょう。したがって重複がんに対するリスクが高いと考えて生活して下さい。このタバコ関連がんを予防できれば更なる長寿は間違いなく与えられるでしょう。

 

‥‥平成14年日喉連誌32号より‥‥