がん研有明病院頭頸科 福島 啓文
(銀鈴59号より)
シャント教室の開設おめでとうございます。長い歴史のある銀鈴会にシャント発声を訓練できる部門ができたことは患者さんにとって、大変ありがたいことだと思います。シャント発声のリハビリをおこなう機会が増え、また発声の選択肢が増えることになるので、大変喜ばしく思っております。
さて、シャント発声とはなんでしょうか? シャントとは医学用語で分路、短絡といった意味に訳されます。すなわち空気の通り道の分路、短絡路(抜け道)を通し、残存咽頭もしくは再建空腸の粘膜を振動させて発声することです。肺の空気を利用することができるため、より自然な発声に近づき、連続した発声が可能になります。
このシャント発声は人工物を挿入しない天津法と人工物(ボイスプロステーシス)を挿入しておこなう方法に大別されます。さらに人工物を挿入する方法のひとつにプロヴォックスがあります。このプロヴォックスを、がん研有明病院では積極的にとりいれています。プロヴォックスが、今までのボイスプロステーシスと違う点は、逆流防止弁の質が向上し、誤嚥による肺炎をおこしにくくなった点と、交換がより簡便になった点があげられます。当院では137名にシャント形成をおこない、約96%の患者さんが発声可能になった実績があります。
がんの治療前にシャント発声の選択肢を患者さんに伝え、がん治療後のQOL回復の選択肢をより多く与えて、安心して癌治療を受けていただけるように努めてまいりました。今後も多くの患者さんが、QOL向上にシャント発声が寄与できればと考えております。
シャント発声にもコツがあります。それは、シャント発声をすでにおこなっている患者さん自身が一番よく知っています。我々医療従事者側も患者さんから学ぶことが多く、銀鈴会で継続したリハビリを患者さんが続けていけることは大変有意義なことだと思います。今後も銀鈴会がより発展していくよう応援させていただきます。
シャント発声では手術で気管孔と食道との間に細い管(シャント)を作り、話すときに気管孔を塞ぐことで、呼気をその管を通して食道を介して口の方に向かって流し、その際に食道発声と同様に食道入り口の粘膜のヒダを振動させて声を出します。最近ではシャント中に弁を装着して飲食物の逆流を防ぐことや、気管孔前に加温加湿フィルターを貼って声を出しやすくするなどの工夫もされています。
長所
1.発声練習の期間が短く、比較的早く話せるようになります。
2.音質、抑揚などは食道発声と同じですが音量はある程度得られます。
3.肺の空気を利用するため、空気の取り込み苦労がなく、空気が多い分だけ長く話すことが出来ます。
短所
1.気管と食道の間に穴を開け、器具を装着する手術が必要です。
2.ハンズフリーのカセットもありますが基本的には手で気管孔を開いたり塞いだりして発声しますので、
片手は使えません。
3.毎日のメンテナンスを怠ると食道から飲食物の流入が生じることもあります。
4.定期的に器具及び補装具の交換費用がかかります。
5.病院での定期的な器具交換と日常の器具清掃などのメンテナンスが必要です。
銀鈴会では喉頭摘出手術を受けられた方に、食道発声法、電気式人工喉頭(EL)による発声法の音声機能回復訓練を50数年にわたって続けて参りました。し かし最近、喉頭摘出者の中に費用、メンテナンスの負担があるものの早期の社会復帰、また話す事への意欲が特に強い方にシャント手術が増えています。
シャント手術 をされた方は、術後早い段階で発声が可能という事で、これまで銀鈴会では特にシャント発声者を対象とした訓練はしておりませんでしたが、調査の結果、シャ ント手術者であっても上手に話すにはコツとテクニックが必要であり、発声力は人によってかなりの差があることが分かりました。
また、銀鈴会のもう一つの大きな役割である“喉摘者の親睦会”という意味においても食道発声、電気喉頭発声、シャント発声教室を一体化した親睦を推進したいと考えておりま す。
また、銀鈴会名誉会員のシャント発声指導に豊富な経験をお持ちの北里大学名誉教授小林範子先生の協力を得て、シャント発声の向上に努めております。是非参加してみたいと思われる方は下記へご連絡をお願い致します。
担当 言語聴覚士 北里大学名誉教授 小林範子
〒105-0004 東京都港区新橋5-7-13 ビュロー新橋901
TEL:03-3436-1820 FAX:03-3436-3497 Eメール:office@ginreikai.or.jp